春来8




俺は目を閉じた。

 会場からは、大きな拍手が波のように押し寄せる。

 つい最近まで、俺は拍手をする観客側にいた。

 だけど今は拍手をされる側に立っている。

 この拍手に答えるだけの舞台を見せなければならない。

 その為に、今まで稽古を積み上げてきたんだ。

 本当に死ぬかと思った日々だったけど。

 この拍手を聞いた瞬間、俺は思った。

 何度でも、何度でも死んでやろう、と。 

 夢にまでみた舞台。

 緊張していないと言えば嘘になる。

 だけど、心地よい緊張感だ。

 緊張感と高揚感の中にも、どこかそんな自分を冷静に見ている自分もいる。

 ああ……この感じ。

 全国高校演劇以来だ。

 あの時もこれほどの人はいなかったけど。

 舞台に向けられた観客達の熱気に、俺は力を貰ったような気がした。

 俺、やっぱり舞台が好きだ。

 そこが大きな舞台だろうと、小さな舞台だろうと。

 俺はずっと立ち続けるだろう。

 迷いはとうに捨てている。

 これから、この世界に生きる人間になるんだ。

 俺は閉じていた目をゆっくりと開く。



 そう、今から俺は。

 織田信長だ。




「待たせたなっ!我が妻となる女は此処か!?」 


 スポットライトの下、俺は勢いよく工藤さんの元に歩み寄る。

 挑むような村岡鬼刃の目を、俺は真っ直ぐに見据えた。

 稽古中、全力で俺にぶつかってきてくれた工藤さん。

 だけど、今はそんな稽古以上の気迫を感じる。

 本番になり、さらなる輝きを増したのだ。

 やっぱり凄い。

 工藤さんは凄い。

 俺の気持ちは自然と信長の気持ちになる。

 初めて鬼刃に出会った時、信長はどんなに嬉しかったことだろう?

 自分から目を反らさずに、見つめる人間の存在がいた。

 そう、本当の友になりうる存在が現れたと知った瞬間。

「おお、そなたが我が妻となる女か。なにやら変わっているな。男のような格好をしておるではないか
……ああ、そういう儂も女の着物を着ておるがな」

 俺は不敵に笑いながら、工藤さん演じる鬼刃の顔を見つめる。

 戸惑う鬼刃の表情は険しさから、どこか可愛らしさが現れる。

「あ……あの」

「うむ、よう見たら美しい顔をしておるな」

 俺は鬼刃の顎を捕らえ、その顔を近づけた。

 その瞬間、会場から歓声のようなものがあがった。

 俺はそんな声を横目に、目の前にいる存在が急に愛しく感じた。

 今の俺には分かるのだ。

 信長は鬼刃に一目惚れをした。

 恋愛感情に近いそれだ。

 そして鬼刃もまた信長の強い眼差しに引き付けられるのだ。

 そうだ、この感情には俺自身にも覚えがある。

 初めて来嶋に出会った時の感覚だ。

 全然自覚はしていなかったけど。

 きっとあの頃から俺は───

 あの時の想いを思い出しながら、俺は信長を演じる。

 来嶋は俺のことを弟のようにしか思っていないのかもしれない。

 この想いが報われない片思いだったとしても。

 決して無駄なことじゃない。

 今まで以上に、自然な信長を演じることができるんだ。

 想いを自覚したことで、より信長の感情に入り込むことができる。

 きっとこれからも俺は色んな感情にぶつかって、振り回されて、泣いたり、笑ったりもするのだろう。

 でもそのたびに、それはこの舞台に生かされる。


 役者として俺は生きていける。


 出番が終わり、今度は別の着物に着替える。

 次の出番は、鬼刃と共に遠出をするシーンだ。

 ここでは女物の着物じゃなくて、一応動きやすい男物の格好になる。

 髪もきっちりとした髪型のカツラに。

 その間、工藤さんは帰蝶さん演じる二名瀬さんとの見せ場がある。

 二人密かに屋敷を抜け出し、蛍の見える河原で抱き合うシーン。

 稽古では何度も拝見しているけど、二名瀬さんがその足を惜しげもなく晒し、上半身を露わにした鬼
刃に抱かれる光景は、なんとも美しく、息を飲むほど倒錯的だ。

 本番の二人の演技を見ることができないのが悔しい。

 だけど、そう思うのもつかの間。

 舞台は一度、暗転し工藤さんが舞台の袖に戻ってくる。

 直ぐさまスタッフが次の着物に着替えさせるべく、今まで着ていた着物をひっぺがえす。

 下着以外裸になった工藤さんに、素早く次の着物を着せる。

 髪も瞬く間に整えられて、あっという間に小綺麗な若侍の出来上がり。

 先ほど濡れ場のシーンを演じていたとは思えない切り替わりだ。

「行こう、浅羽君」

 工藤さんの声に、俺は頷く。

 

 第二部後半───


「ああ、やはり遠出は快晴の日に限る。見ろ、鬼刃。まるで山が波のようだ」

 俺は眼前に広がる稜線を指さす。

 眩しそうにその光景を見つめる信長の横顔に、鬼刃の顔も自然と綻ぶ。

「本当に……あの方向は、京の方でしょうか?」

 鬼刃もまた目を細めながら小手をかざし、その風景を見つめる。

 信長はそんな鬼刃に目をやる。

 山の向こうにある都に思いを馳せているのか、その顔はどこか無邪気で可愛らしさもあった。

「鬼刃は京へ行ってみたいか?」

「それはもう!その昔叔父上から聞いたことがあります。かの地はまるで夢のような都だったと。色と
りどりの織物が並び、見たこともない装飾品や茶道具なども沢山みることができると」

「ほほぉ、そなたの叔父上は京に赴いたことがあるのか」

「はい、叔父上は商人でして。父は武家なのですが、母は商家の娘。母の弟にあたる叔父上は、何
度か京へ仕入れへ出かけると申しておりました」

「そなたの父上は先見の明があるやもしれぬな。これからの戦に於いて商人との関わりは疎かにで
きぬ。そう……いつしか、あの山の向こう、京へのぼるためにも」

 俺はじっと鬼刃を見詰める。

 鬼刃はやや驚いたように瞠目し、息をのむ。

「鬼刃、道三の爺など捨てて、儂と共に京へ来ないか?」

「信長様……?」

「儂と共に来い!鬼刃」

 俺は鬼刃の手を強く掴んで、更に食い入るようにその目を見詰める。

 鬼刃はどう答えるか迷っているようだった。

 そう。

 彼は自分を暗殺するために斉藤道三に使わされた忍。

 主君を裏切るわけにはいかない。

 信長は鬼刃のそんな心情を百も承知で言うのだ。

「儂と共に来い!」

 と。

 鬼刃自身、揺れているのが手に取るように分かる。

 あんな老いぼれなどすてて、自分へ着け。

 迷いなど捨ててしまえ。

 いずれは美濃も我がものとなる。

 お前が迷うことなど、何一つない。

 

暗転


気分は高揚したままだ。

舞台の袖に戻った俺は、次に白衣に着替えるべく、着物を脱いだ。

 直ぐさま女の子が白衣を持ってきて着付けてくれる。

 帯もぎゅっと締められて、身が一段と引き締まる思いになる。

 今さんがその時、俺に歩み寄って、小道具である太刀をこちらに手渡してきた。

「頼んだぞ、信長」

「……はい」

 俺は深く頷いた。

 次は信長と鬼刃が刀を交えるシーン。

 俺にとって村岡鬼刃という舞台は、ここから始まったと言ってもいい。

 本来信長を演じるはずだった小見山さんは、俺にその座が奪われると思い込み、仲間と共に闇討ち
を仕掛けてきた。

 俺は顔をボロボロにされて、役者生命を危うく断たれる所だった。

 このまま引き下がる訳にはいかない。

 この顔の代償は必ず支払って貰う。

 俺はその思いをぶつけるべく、敢えて小見山さんを初め、他の役者さんやスタッフさんの前で信長を
演じた。

 それが次のシーンだ。

 あらゆる意味で思い入れが深い。

 この信長を演じたことで小見山さんはKONを去り、俺は信長役を手に入れた。

 こんな形で初舞台を迎えることになるとは思わなかったけど。

 だけどもう引き返せない。

 KONを立ち去ることになってしまった小見山さんの分も。

 迷惑を掛けたスタッフや役者さん、そして今さんたちに報いる為にも。

 俺は、全身全霊かけて演じるのみだ。

 今さんから刀を受け取り、強く握りしめる。

 いまは工藤さんが、明智光秀演じる木村さんとやりとりをしているシーンだ。

 元々斉藤家の家臣であった光秀は、信長暗殺を鬼刃に促す。

 その言葉に頷きながらも、苦悩を露わにする工藤さんの横顔。

 客席もしんと静まりかえり、固唾を呑んで舞台を見守っていた。




第三幕───

  

「のう、鬼刃。雪と梅というものは、まことに似合うと思わぬか?白き景色の中、紅の花がよう映えて
おるわ」

真っ白な雪景色に、咲き誇る紅梅。

凍てつく風の中、そして降りしきる雪の中、気高く咲き誇る紅の花。

美術さんの腕は見事なもので、作り物の梅の枝は本物のそれに近い。

 俺はその梅の花を愛しそうに見つめる。

「鬼刃も、よう見てみよ」

 穏やかに俺は鬼刃に微笑みかける。

 一番、難しいシーンだ。

 その穏やかさの中にも、相手に威圧を与えなければならない。

 まるで操られたかのように梅の花をみる鬼刃。

 雪景色と紅梅。

 なんとも鮮やかな取り合わせだ。

 真っ白な雪の上に舞い降りる紅の花に鬼刃は息をのむ。

「あの紅の花びらよりも色鮮やかな紅が、この世にあるかのう?」

 俺は囁くように鬼刃に問いかける。

 まるで試すような。



 アノ紅ノ花ビラヨリモ色鮮ヤカナ紅




 その言葉に、目を見開いてこちらを見る鬼刃に。

 俺は微笑する。

 鬼刃が刀に手を掛ける前に、素早く鞘から刀を抜く。

 鋭い光を放つ刀身。

 勿論小道具用の偽物だが、会場が固唾を飲むには十分な迫力があった。

 刃を横になぎ払い、切っ先を鬼刃に向ける。

 鬼刃は、がたがたと震えだし、刀に手を掛けたくてもかけられなかった。

 そのまま切られることを覚悟して、目を閉じる。

「貴様がこの尾張に来た意味、このウツケが察することが出来ぬと思うたか?」

「……!」

 びくりと鬼刃の肩が震え、彼は思わず顔を上げる。

 俺はさらに笑みを深める。

 触れあう刀越しに、相手の震えが伝わる。

 鬼刃の恐れだ。


 鬼の名を冠にする自分を跪かせる鬼。

 実の父さえ自分を恐れていたというのに。


 鬼刃はかっと目を見開き、闇雲に信長に斬りかかろうとする。

「あなたを殺すことが私の使命」

 苦しげに漏れる声。

 鬼刃は首を横に振り

「あなたと京に上るのは夢物語だった……」

 分かっている。

 最初から自分は信長の敵だった。

 だけど、そんな信長に自分は惹かれていた。

 そんな迷いがある鬼刃の剣は、俺にたやすく受け流される。

 さらに斬りかかるが、悉く避けられ、弾かれてしまう。

 渾身の力を込めて、鬼刃は上段の構えをとり刃を信長目がけて振り下ろす。

 信長はその刃を受け止め、眉間に皺を寄せる。

 刀同士の押し合い。鬼刃は、必死になって信長にくってかかる。しかし信長はそんな鬼刃を近づくで
押し返す。

 突き飛ばされ、尻餅を付く形となった鬼刃に、信長は背を向ける。

 その背後では、隙が出来たにもかかわらず、刀を振り上げることもできずに呆然と座り込む鬼刃の
姿がある。

 俺は屋敷から庭へ出て、梅の木の枝を切り落とす。手に落ちた梅の枝を、鬼刃に手渡す。

「しかし、今の貴様では、とうてい梅以上の紅を咲かすのは無理なこと。儂の血が欲しくば、いつで
も くれてやるぞ?ただし、儂を斬ることができたらの話だがな」

 何処までも自信に溢れた信長の口調。

 そして鬼刃を見る目は、普段の友を見る目と変わることはなく。

 まるで剣の稽古をした後かのような爽快感さえ感じた。

 鬼刃の目から涙があふれ出る。


「あなたを……殺せない」


 やっと洩れた彼の本心。

 鬼刃は呆然と視線を宙に漂わせながら呟くように言う。

「どうして私は斉藤の人間だったのでしょう?もし織田の人間だったら、全力であなたを守りたい。あ
なたにお仕えしたいのに!!」

 想いが鬼刃の全身から伝わる。

 胸に手を当て、大粒の涙をこぼしながら、心の底から苦しみを叫ぶ。

 俺はそんな彼が愛しくなり、その全身を抱きしめた。

「お前は渡さぬ……お前が儂の元に来た時から、お前は儂のものじゃ!」

 


 そして信長は、正徳寺にて義父になる斎藤道三と面会をする。

 蝮の道三演じるのは、今さんとは馴染みの俳優である鹿島さん。

 悪役のベテランだ。

 一度、この人とはKONのオーディションの時に、相手になって貰ったことがあった。

 あの時は狡猾な脅迫者の役だったけど、今回は違う。

 一介の油売りから、戦国大名にまでのぼりつめた傑人。

 穏やかな目つきの中に、鋭い眼光をたたえる人物だ。

 あの時とは別人の鹿島さんの顔だ。

「なるほど……噂というものは、表面から見た出来事しか伝えぬらしいな」

 右手に持つ扇子で左の掌を叩きながら、蝮は言った。

 喉元に毒の刃を突きつけられた感覚に、普通の人間ならば蛇に睨まれた蛙と同じになるだろう。

 だが、信長はその刃に恐れることなく、むしろ安堵に近い表情でそんな義父を見つめていた。

 そう、彼は蝮と恐れられる義父に親近感を抱いていたのだ。

 自分のことを恐れていた実の親たちよりも、自分に刃を突きつける道三の方がよほど親のように思
えたからだ。

 俺はくすりと笑って、道三に告げる。

「義父上、この場で私を殺せば、尾張は瞬く間にそちらのものになりますが」

「ふ……そのような挑発にはのらぬよ。娘は達者か?」

「ええ。お陰様で。我妻は実に賢く、義父上に似て強い。美濃で最も美しい姫にございます。故に私は
お濃と呼んでおりまする」

「ほほう、お濃か」

 道三は目を細めて、感心したように言う。

「ええ。最も私が帰る蝶ではあって欲しくないが故に、そう呼んでいるのですがね」

「……」

 道三は何も言わず穏やかな笑みを浮かべる

「お濃は帰しませぬ故、寂しいかとは存じますが堪えていただきたい」

「ははははは、何を言うかと思えば。確かに我が娘の名は帰る蝶と書いて、帰蝶ではあるが、それは
いずれいなくなるかと想うと、一人の親として寂しいが故に名付けたに過ぎぬ。

本当に帰ってきて欲しいなど考えてはおらぬよ」

 この瞬間、道三は織田信長という男の器量を認めた。

 もしうつけであれば、娘に殺して参れと命じていた道三だったが。

 今、この男はまさに娘婿として相応しい男であった。

 信長暗殺の目的は果たせなかったが、帰蝶を織田に送ったことは正解だった。

 あの男だけは敵には回せぬ。

 この会見により鬼刃は信長暗殺の命を解かれることになった。

 そして正式に信長に仕える身となる。

 鬼刃は望み通り、本当に仕えたい主君に使えるようになったのである。



「こちらに居られましたか。殿、屋敷にお戻り下さい」

「おう、午後から茶会じゃったの」

 のんびりとした声で、俺は言った。

 春の温かな日差し惜しむかのように、俺は一度寝返りをうつ。

 茶会など面倒だ。

 それに鬼刃が今ここにいる。

 このまま二人きりしばらくのんびりとしたいものだが。

 そんなこちらの気持ちなどつゆ知らず、鬼刃は苛立った口調で。


「殿!」


 と今一度呼ぶ。


 俺はひょいっと片手を上げ、鬼刃に近くへ来るよう手招きをする。

 訝しげに近づくと

「もっと近う」と鬼刃の手を引く。

「……!」

 鬼刃は両手と膝を地面に着け、信長の顔を真下に覗く格好となる。

「も、申し訳ござ」

 慌てて引こうとする鬼刃の手を捕らえ、もう一方の手は鬼刃の頬に触れる。

───

「……美しいな」

「と、殿」

 改めてしげしげと真上にある人物を見ながら讃美する。

 鬼刃演じる工藤さんははっと息を飲んで。

 どこか恥じらうように目を伏せる。


「美しい鬼じゃ、そなたは」


 俺は眩しそうに目を細めて言った。

 愛しい恋人を見詰めるかのように。

 今なら分かる。

 俺はあの時から来嶋への想いが深まっていたんだ。

 それが演技にも出ていたから工藤さんは……。

 この想いを自覚してますます、鬼刃を愛しく思う信長の気持ちが分かってきた。

 人を愛しく思う信長の気持ち。

 それはこんなにも幸せで。

 嬉しい気持ちにさせて。

 それ故に、別れという、どんな形であれ、いつか来るであろう悲劇を思うと不安で。

 そして切なくなる。

 

「殿、参りましょう」

 鬼刃の言葉に。

「うむ」

 俺は頷いてから、ゆっくりと起きあがった。

 少しでも鬼刃と共にいる一時を噛みしめるかのように、ゆっくりと。




 

 

 第三幕後半


 だが、そんな平和な日々はつかの間のことであった。

 斎藤道三が死に息子義龍の謀反により殺された。

 それにより美濃と尾張は対立を深めることになる。


「そなたたちは逃げよ」


 信長に呼び出された鬼刃と帰蝶は突如そう告げられて、二の句が継げなかった。

「何故……?」

 やっとの思いで問いかける鬼刃に、信長はにやりと笑う。

「儂がそなた等の関係に気付かぬと思うておったか。だからこそ、儂は一度もそなたの寝所には訪
れなかった」

「の……信長様」

 確かに、帰蝶が織田家に嫁ぐ以前から、信長には既に妻に等しい女性がおり、正室である筈の帰
蝶とは共に華を愛でたり、書物を読む仲のみで。

 夫婦の営みは一度もなかった。

 帰蝶の目から次々と涙がこぼれる。

 彼女は彼女で聡明な信長のことを、好ましく思っていた。恋愛こそなかれ、一緒に暮らしながら家族
のような親しみを覚えていたのだ。

 そんな思いが今、帰蝶演じる二名瀬さんから滲み出ていた。

 工藤さんと唯一渡り合える女優さん。

 本当にイイ演技をする。

「知っての通り、尾張と美濃は戦わなければならぬ。家臣からは、濃姫、そなたを間者とみなし、殺す
ように進言する者もおる。その声が広まれば、さすがの儂もそなたらをかばいきれなくなるであろう」

 あくまでも心穏やかに、俺は鬼刃と帰蝶に向かって告げた。

 何とも言えない複雑な鬼刃の表情。

 悔しげでもあり、悲しげでもある。

 信長自身も同じ気持ちだが、それは絶対に表には出さない。

 その夜。

 帰蝶は供の者と共に、先に立たせ、鬼刃は密かに信長の部屋に訪れた。

 床についていた信長は、その気配に目を覚ます。

「信長様……」

 泣きそうになる声を抑え、かろうじて名前だけを呼ぶことができた。

 本当はこの後に台詞が続くのだけど、工藤さんは敢えて言わなかった。

 確かにその台詞は要らないように思えた。

 信長は。

 寝床から起きあがると、障子を勢いよく開き空を見上げる。

 そしてゆっくりと目を閉じて、鬼刃に問う。

「行くのじゃな……」

 鬼刃は答えずにさらに深く頭を下げた。

 その体は小刻みに震えている。

 俺はそんな鬼刃の体に羽織をかけてやった。

 鬼刃の目からは堪えきれず涙がこぼれる。

 信長は堪らず、その体をきつく抱きしめた。


「俺はお前を離さぬ……離しとうない!!」


 駄々をこねる子供のように叫んでいた。

 恐らくこの男ほど心が許せる相手は今後二度と現れないであろう。

 鬼刃とならどんな修羅道とて恐るるに足らないのに。

 ああ……それでも、これからは自分一人で歩まねばならない。

 この想いを露わにするのは今宵で最後だ。

 俺は工藤さんの体をきつくきつく抱きしめる。

 もう二度と会うことはない。

 それが分かっているが故に。


 一晩を明かした後、鬼刃は去った。

 信長は一人。

 仏間の中心に半跏坐になり、目を閉じた。

 この空間を包む空気と動揺、心の中も静寂に包まれる。

 もはや迷いはない。

 その思いは、舞台で生きることに決めた俺自身の思いとシンクロする。

 信長は俺自身だ。

 俺は役者として生きていく。

 この舞台の上で生きていくんだ。

 俺は目を見開き、勢いよく立ち上がる。

 客専用の出入り口から役者が登場したので、客席が歓声の声を上げる。

 兵士や部下たちに扮したKONの役者さん達は、客席の通路を走り、舞台の傍に駆け寄る。

 舞台に立つ信長を食い入るように見上げる。

 俺は彼らに大きく頷いて、劇場に響き渡る声をあげた。



 

「皆の者、美濃と合戦じゃ!!」



 俺の声に呼応し、兵士たち演じるKONの役者さんも目一杯の咆哮を上げる。

 中にはお客さんの声も聞こえた。

 同じように叫んでいる。

 声には出さないけれども、同じように答えてくれる客席の声を俺は聞いたような気がした。



 

天正10年6月2日 本能寺

早朝、信長は鉄砲の音を聞き、近習である森蘭丸に問うた。

「……謀反か、いかなる者の企てぞ」

 既に戦場となった喧噪の中、信長は静かに問いかける。

「明智光秀にございます」

「是非に及ばず」

 俺はは弓を持ち、明智勢に応戦する。

 だが一万五千人の明智勢に対し、信長を守る兵はわずか百六十。

 もはやこれまでか。

 俺はふっと自嘲混じりの笑みを浮かべる。

 ここまで来た修羅道は過酷なものだった。

 一度は身内と呼んだ者を切り捨て、身内と信じた者に裏切られ。

 後戻り出来ない過酷な道を歩み、やっと天下は目の前の所だというのに。

 多勢に包囲された信長だが、その包囲網を突破し、信長の前に立ちはだかる者が現れた。

「お……お前は」

「殿!私も京を見に馳せ参じました」

  信長は信じられぬと、首を横に振る。

 だがあの頃と変わらぬ儘に、その男は美しい笑みを自分に向ける。

 村岡鬼刃。

 彼は両手に刃を持ち、取り囲む軍勢たちをにらみ据える。

「愚かな……何故死にに来た!?そちには家族がおるだろうに」

「ええ、娘が一人。現在は、前田家の養女として大切に育てられております故」

「前田とは、前田利家の前田家のことか。そういえば、三の姫は確か養女だという噂を耳にしていた
が」

「前田殿とは以前より懇意にしておりました故」

「……妻はいかがした?」

「娘を生んで間もなく。幸せだったと申しておりました」

 鬼刃の言葉に。

 信長の表情は、安堵した笑みを浮かべた。

「そうか」

「信長様、この場はお逃げ下さい。私もすぐに参ります故」

 にこりと笑う鬼刃に、信長は大きく頷いた。

「待っておるぞ」

 信長は鬼刃に背を向け、燃えさかる本能寺の中へ消えていった。

 鬼刃は咆哮を上げながら、敵陣の中へ突入する鬼刃の声が聞こえた。

 


「鬼刃、儂と共に京へ来ないか?」

「はい、参ります。これからはどこまでもあなたにお仕えします」


 

 暗転と共に、舞台は幕を閉じる。

 会場はしばらくしん……としていた。

 まるで水を打ったように。

 舞台の袖。

 一瞬不安に思い、工藤さんの顔をみる。

 だけど、俺はその顔を見ることが出来なかった。

 工藤さんにきつく抱きしめられていたのだ。

 次の瞬間。

 大きな、大きな拍手が津波のごとく押し寄せてきた。

 カーテンコール。

 緞帳が上がった時、俺はあまりのことに頭が真っ白になっていた。

「ほら、いくよ」

 優しく工藤さんが俺の背中を軽く叩く。

 俺は頷いて舞台の前方へ歩み寄る。

 改めて客席を見て、俺は長い溜息が漏れる。

 こんなにも……こんなにも沢山のお客さんが舞台を見てくれたんだ。

 

「あ……ありがとうございます!」


 俺は感極まった思いを思わず声にした。

 お客さんは一瞬びっくりしたような表情を浮かべたものの、次の瞬間拍手がさらに大きくなって。

「いいぞーっ!!信長!!」

 どこからともなく聞こえる歓声に、俺は嬉しくて嬉しくて。

 何とか泣かないように堪えた。

 とりあえず精一杯の笑顔を向ける。今はここに来てくれたお客さんや、舞台を作り上げてくれたスタ
ッフさんや役者仲間たちに感謝の気持ちを込めて。

 

 閉幕


「おっしゃ!お前ら次もこの調子で行け!!」 

 舞台袖に戻った俺と工藤さんは、真っ先に駆け寄って来た今さんに二人まとめて抱き寄せられた。

 とはいっても首に腕がまわって、顔面は胸板に押しつけられて……か、かなり息苦しいんですけど。

 しかも今さん、俺にはそのまんまヘッドロックをしてきたのだ。

「あー!!畜生、何でお前が永原の弟子なんだよ」

「い……今さん。前にも言ったように、俺は今さんの弟子でもあって、永原さんの弟子でもあるんです
から」

「どっちか一人に選べってんだ」

 さらに頭を締め付けてくる今さん……ひどい扱われようだけど、一応この人の愛情表現だと思ってお
くことにする。

 他にもスタッフさんや役者さんが拍手をしたり万歳をしたり。

「お前にゃぁ負けたよ」

 木村さんが俺に歩み寄り、ばんばん肩を叩いたり。

 他にも……あ、静麻監督。それに隣にいる人、どっかで見たことあるよーな。

 薄手のセーターにジーンズ、 髪はスポーツ刈りがちょっと伸びたような髪型。

 黒縁メガネの下、なんだか鋭い眼差しでこっちを凝視しているよーな??

「よう、水森じゃねぇか。何だ、俺様の舞台を見に来るたぁどんな風の吹き回しだ」

 今さんがその人に向かって言った。

 水森って……もしかして水森衛!?

 あ、そうか。

 そういえばこの人が脚本を書いて、静麻監督が指揮した映画がちょっと前に大ヒットしていたっけ。
あの映画には確か永原さんとそれから……そうだ!!伊東成海も出ていたんだよ!!出てくるシー
ンが違うから共演してるよーでしてないけど、あの二人が同じ映画に出ていた時があったんだよな
ぁ。

 あれDVD持っていたけど今、実家にあるんだよな。

 実家と言えば、父さんも母さんも……来るわけないか。

 水森さんはつかつかとこっちに歩み寄ってくると、いきなり俺の頭をひっつかまえて、じっと睨むよう
に凝視してきた。

 何?

 何なの??

「ふん……ツラ構えは悪くねぇな」

 初対面で、俺の頭をUFOキャッチャーのように掴むこの人、何?

 水森さんは俺の頭を離さないまま、今さんの方を見た。

「おい、コイツの来年のスケジュールは空いてんのか?」

「あ!?来年どころか、今年もまだ真っ白だぞ。今日の舞台が初めてのど新人だからな」

 ま、これからどうなるかはわからねぇけど。

 と言う今さんに対し、水森さんは。

「あ、そう。じゃ、今年の後半からスケジュール開けといてね、君」

「……は?」

 何を言っているんだ??この人。

 すると水森さんはこっちの顔をのぞき込んで、何だか殺気だった目でこっちを睨んできた。

「つべこべ言わずに、俺の舞台に出るんだよ。いいか、お前、師匠と同じように途中で別の舞台に乗
りかえたらぶっ殺すからな」

「…………」

 何の話だか分からない。

 え?

 何、もしかして俺、水森監督の舞台に誘われてんの?

 師匠と同じって何のこと。

「あー、お前、来春の舞台、永原に振られたのかぁ」

「黙れ!あー、くそあのジジイ。寿命を盾にしてやがって」

 今さんと水森さんの会話で分かったことは。

 どうも永原さんは出演予定だった水森さんの舞台を、高城のおじいさんのオファーがあった為に、キ
ャンセルしたらしい。

 まぁ、そうだよな。

 最後の舞台だって泣きつかれたら、誰だってそっち選ぶだろうし。

 で、その永原さんの代わりに、俺がその舞台に出ることになったってコトか。

 って……えええっ!?

 あ、でも紺野さん「他からオファーが来るかもしれないから、君は永原さんの舞台は出られない」と
か言っていたけど……そうだったのか。紺野さん、水森さんのこと知っていたんだ。

 でも永原さんの代わりに俺って……そんなのつとまるのだろうか。

「あ、言っとくけど、君に映ちゃんの演技は全っ然期待してませんから」

 俺の心を読んだかのように、水森さんが言った。

 いや……そんなに凄く全然を強調しなくても。

 まぁ、そうだよな。

 永原さんだけじゃない。

 代役って言葉があるけど結局誰かの代わりなんてものは、無理に決まっている。

 俺は永原さんじゃないし、永原さんも俺じゃない。

 俺は俺が演じうる演技をするだけだ。

 しかしヘッドロックをかけられたり、UFOキャッチャーのように頭捕まれたり。

 頭に難ありなのか、今日は。

 頭をさすりながらそう思った時、なにやら、廊下に続くドアの向こうから騒がしい声が聞こえてきた。


「ちょっと、お客さん。困ります」

「困らないわよ。私は関係者なんですからね!」

 

 なんだ、なんだと訝る今さんや水森さん。

 俺は。

 ドア越しにその声を聞いて、たちまち血の気が引くのを感じた。

 あの声は、まさか。

 

 バン!、と音を立ててドアを開けたその女性に。

 その場にいた一同は呆気にとられた。

 俺はあちゃっと額を抑える。

 や……やっぱし母さんだ。

 ミンクのショールに、黒のワンピース。

 くるんくるんにカールされたロングヘア。

 見た目、女優並みに綺麗だから、ここにいる女優人達と遜色ないのは、我が母ながら流石だ。

 彼女は早歩きで、俺の所に歩み寄り、まず最初に頭を叩かれた。

 や、やっぱし頭が災難らしい。

「この親不孝者」

 静かに母親は俺に告げる。

 今まではヒステリーな声で同じ言葉を浴びせていたけど。

 今回は何か違っていた。

 俺は恐る恐る母親の顔を見る。

 彼女は目を潤ませて、俺の方を見ていた。

「本当に親不孝ものなんだから、あんたって子は」

「ごめんなさい。でも、俺」

「もう何も言わなくていいわよ。散々聞いた言葉だもの」


 役者として生きていく。

 

 喧嘩しながらも、そう、俺は自分が本当にやりたいことを親に訴え続けた。

 例えそれが傷つけているにしても。

 もう嘘をつくことが出来なかったから。

「……あんな、舞台の上にいるあんたの顔みたら、もう反対する気も失せたわ」

「……」

「医者なんかになったら、あんたのあの顔見ることができないじゃない」

 その時母親は、嬉しそうに微笑した……ような気がした。

 そんな笑顔見るの初めてだから、俺はびっくりした。

 やっぱり、この人綺麗なんだな。

「いい?役者になるって決めたのなら、絶対に大物になりなさいよ。この人のような」

 この人と言って見たのは今泰介だ。

 そうか。

 母さん舞台とか結構見に行っていたからなぁ。

 今さんのこともよくしっているんだ。

 俺は大きく頷いた。

 母さんの期待には応えられなかったから、その代わり母さんが誇れる役者になってみせる。

「おまかせ下さい。お母さん。俺が必ず洋樹君をビックにしてみせます」

 ……………………は!?

 いきなり俺の肩に手を回してきて言ったのは水森さん。

 何、さっきと全然態度違うんですけど!?

 しかも猫背だった背をぴんと伸ばし、顔もすごくにこやかだ。

 いましがた俺に向けていたあの殺意の目はどこへやら。

「なにしろ彼は才能がある。この舞台の評価も恐らく高いでしょうし」

「まぁ、ありがとうございます」

 母さんも母さんで嬉しそうな笑みを浮かべている。

 ぱっと花が咲いたようなその笑顔は、少女のような可愛らしさを感じる……もう46歳なんだけど。

 でも、その笑顔で大病院のお偉いさんや政治家を何人取り込んだことか。

 そして横にいるおっさんも見事に取り込まれた。

「洋樹のことよろしくおねがいします」

「はい、喜んで。それで、お母さん、そんな洋樹君との将来もお話したいので、この後お食事にでも」

「まぁ……本当に!?ああ、でもごめんなさい。外にもうひとりの息子と娘を待たせてあるの」

 母親の言葉に俺は「え!?」と声を上げる。

 何、もう一人の息子って。それに娘って??

 母はにこやかに笑って俺に言った。

「洋樹、驚かないで聞いてね。あなたにお兄さんができたの」

「は!?」

「啓ちゃんがね、私達の息子になってくれるの。おほほほ、啓子は猛反対していたけどね、あの人が
病院長を継ぐ第一条件だって言ったら、啓ちゃん、二つ返事でOKしてくれたのよ」

 啓子というのは啓ちゃんの母親の名前だ。

 そうか。

 結局、紙面上とは言え啓ちゃんは母さんの子供になるわけだから、我が子が病院長になるという母
の野望がかなったというわけか。というよりも、まぁ、啓子叔母さんに一泡吹かせることができればそ
れでいいんだろうな。

 父さん、考えたな。

「そうですか。残念です。あ、お母さん。これ俺の連絡先です。何かあったら是非ご相談ください」

 素早く母に名刺を渡す水森さん。

 母はそれを両手でうけとり、「ありがとうございます、今度また是非」と思わせぶりな言葉残し、軽くお
辞儀をしてきびすを返す。

 しかし、しばらくしてこっちを振り返り。

「あ、洋樹。あの人、仕事が入ったから来られなくなったの。行く気満々だったのよ?

でも、こればかりは仕方ないわよね」

 そっか……父さんは仕事か。

 でも来るつもりでいてくれたことは嬉しいな。

 村岡鬼刃も東京ではあと四回あるからな。

 その内のどれかには見に来て欲しいけど。

 実に悠然とした足取りで立ち去る母親の姿は大女優さながらだ。

 全員は呆気にとられてその後ろ姿を見送っていたが。

「あー、さー、ばー、くぅぅぅん」

 水森氏の手は俺の肩から首に回る。

「な、なんですか」

「これから俺のことお父さんと呼んでいいから」

「は……?」

 満面の笑顔で言う水森に俺は目を点にする。

「君のお母さんは死んだお父さんの分まで、この俺が必ず幸せにする」

「人の父親を勝手に殺さないでください」

「あれ?まだ存命中?」

「生憎」

「そうか、まだ人妻かぁ……そそるねぇ」

 水森氏、顎をさすりながら鼻の下を伸ばしている。

「今さん」

 俺は呆れてその姿を見ている今さんに思わず声を掛けた。

「あん?」

「あの人、スゴイ女好きなんですね」

「ああ、奴は筋金入りだ。お前の母親は一切近づけない方がいいぞ」

 そこに頭をまた後ろから、がしっと捕まれる手があった。

 頭の災難はまだ終わらないのか?

 振り返ると、両目をぎらーんとさせた静麻監督の姿が。

「あ、静麻監督」

「浅羽くぅぅん。水森君の次は僕だからね。覚えておいてよ!?」

 ああ、そうか。

 映画の撮影は二年後。来年の水森さんの舞台が終わってからってことになるんだろうけど。

「もちろん、忘れませんよ」

「ホント、ホントだね!?」

 何だか泣きそうな顔になりながら、俺の両肩を掴んでゆさゆさ揺らす静麻監督に、今さんは呆れる。

「てめーは、五分前の約束事を忘れるくせに何言ってやがんだ」

「僕は大事なことは忘れないよ!?」

「嘘つけ。記者会見ど忘れして中国へとんずらしたのはどこのどいつだ!?」

「え?あんなのどーだっていいじゃん

 すっぱり言い切る静麻監督に今さんは顔を引きつらせた。

「………………てめぇとだけは、今後ぜってー仕事したくねー」

「ええ!?僕はまた君と一緒に仕事したいのにー。魔性の次に考えてる映画があるんだよ!怪獣映
画でね、その主人公が君で、普段は平凡な青年なんだけど、年に一度怪獣になるんだ」

「な、なんだ、そりゃ!?んなもん、死んでもお断りだ!つーか、そのストーリー自体ボツだ!」

「ええ!?君までそんなこと言うの!?水森君に脚本お願いって言ったら、馬鹿かてめーは!?って
言われたんだよ」

 大きな目に涙を溜めて、今さんにすがりつく静麻監督。

「言われるに決まってんだろ!?おめーは一回脳を掃除しろ」

 くっついてくる静麻監督を引きはがしながら今さんは、怒鳴りつける。

「え……脳って掃除できるの?」

「言葉のアヤだ、ボケ!頭を冷やせってことだ!」

 そんな二人の光景を見ながら俺は。

 静麻監督と仕事をすることが、少し、不安になってきたのだった。

 いや、でもすごいよな。

 次の次のそのまた次の映画まで考えているなんてさ。

 しかし、次回作に向けて手掛けている北京逃亡劇は、二人の青年が友達を助けるために

マフィアのアジトに乗り込むドタバタ劇、でその次の俺が出る「魔性」は、学校を舞台にした復讐劇、
で、今言っているのが怪獣映画?……なんか統一感に欠けるよなぁ。

 結局年に一回怪獣になる青年の話は、周囲の猛反対を受けてボツになったそうだ。



 それから、出待ちのお客さんに見送られ、大型タクシーに乗り込み、全員一度劇団KONに戻った。

 休む間もなく、明後日の公演の打ち合わせ。

 ちなみに明日はくらしま座が休館日。

 二回目公演は明後日からになる。

 ある程度打ち合わせが終わったら、礼子さんや劇団の女の子たちがビールやお握り、御菓子など
を持ってきてくれた。

 工藤さん曰く、プチ打ち上げだそうだ。

 本当の打ち上げは千秋楽を終えたら、今さんなじみのレストランで行われるのだそうだ。

 この村岡鬼刃の公演予定は東京で五日。名古屋で三日、大阪で三日。

 プチ打ち上げで、劇団の皆さんとなんやかんや喋っているウチに、終電の電車に駆け込むことにな
った。

 アパートに帰って風呂も入らずに、俺はベッドの上に転がる。

 睡魔はすぐにやってきた。

 そういや初回公演を終えた来嶋も、同じように帰ったらすぐに寝たっけ。

 そんなことをぼんやり思いながら、俺は眠りについていた。




つづく    


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